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2026.02.10 Tue UP

大雨時の河川におけるプラスチック輸送の実態を解明
~洪水が支配する年間輸送量と流量による簡易推計手法の開発~

研究の要旨とポイント

  • 出水時には河川中のマイクロプラスチックおよびメソプラスチック濃度が著しく増加し、年間輸送量の大部分が、これまでに現地調査が非常に少なく知見の不足していた増水期に集中していることを実証しました。
  • 流量とプラスチック輸送量の関係を数式化し、集水域や降雨規模が異なる場合でも適用できる一般的な経験式を導出しました。これにより、流量データから輸送量を簡便に推計できるようになりました。
  • 従来の平常時のみを対象とした調査ではプラスチック輸送の実態を見落としていた可能性を示すとともに、洪水時モニタリングの重要性を明らかにしました。さらに、一人当たりのプラスチック排出量推定に基づく、効果的な汚染対策立案への道を開きました。

研究の概要

東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科 水理研究室の田中 衛助教、二瓶 泰雄教授の研究グループは、集水面積および人口密度が異なる4つの都市河川を対象に、時間ごとに採取した河川水中のプラスチック濃度を測定し、出水時のマイクロプラスチック・メソプラスチック(MMP)の輸送実態を解明しました。

河川は陸域から海洋へのプラスチック流入の主要経路として認識されています。しかし、これまでの研究は主に平常時の河川を対象としており、洪水時や大雨時におけるプラスチック輸送については世界的にも十分な調査が行われていませんでした。そこで本研究では、日本の4河川(鶴見川、多摩川、浅川、大和川)を対象に、大雨による増水時に連続的な水質調査を実施し、MMP輸送の実態解明を試みました。

本研究の結果、大雨により河川の流量が増加すると、河川中のプラスチック濃度が劇的に上昇することが確認されました。特に、一部の河川では年間のメソプラスチック輸送量の約90%が、大雨による増水期であるわずか43日間に集中して輸送されていることが明らかとなりました。また、流量(Q’)とプラスチック輸送量(L’m)の関係を数式化し(マイクロプラスチック: L’m = 71.27Q’1.55、メソプラスチック: L’m = 108.76Q’2.20)、流域面積や降雨規模が異なる場合でも適用できることを実証しました。この式により、流量データからプラスチック輸送量や流域人口一人当たりの年間プラスチック排出量を簡便に算出できるようになりました。

本研究により、従来の平常時のみを対象とした水質調査では、プラスチック輸送の実態を大きく見落としていた可能性が示されました。さらに、洪水時のモニタリングが不可欠であることに加え、本研究で開発した推計手法が、効果的な汚染対策の立案や評価に活用できることが明らかになりました。

本研究成果は、2025年12月15日に国際学術誌「Water Research」にオンライン掲載されました。

図 本研究の概要

図 本研究の概要

研究の背景

2019年の世界のプラスチックごみは3億5300万トンにのぼり、その多くは適切に処理されていますが、2200万トンが環境に流出していることが報告されています。しかし、このような推定値には不確実性が含まれており、対策の有効性を評価するには現在の排出量を正確に把握する必要があります。

河川は、陸上で使われたプラスチックが海へ流れ出る際の、最も重要な通り道の一つです。私たちの生活圏で発生したプラスチックごみは、普段はその場にとどまっていますが、大雨や洪水時には、雨水の流れに乗って移動し始めます。その過程で、下水道を通ったり、あふれた水とともに直接河川へ流れ込んだりして、最終的に海へと運ばれます。特に、近年増加している異常気象による大規模な浸水や、雨水と生活排水を同時に流す合流式下水道からの越流は、プラスチックごみが一気に河川へ流れ出る大きな要因となっています。

河川におけるマイクロプラスチックやメソプラスチック(MMP)の輸送量と輸送メカニズムを明らかにすることは、河川から海洋への流出を抑制する対策を検討する上で不可欠です。しかし、河川水中のMMP濃度を測定する現地調査は、これまで主に平常時の低流量条件下で行われてきました。そのため、洪水時の測定事例は世界的にも極めて限られています。従来の研究から、洪水時には河川中のプラスチック濃度が平常時より大幅に高くなる可能性が示唆されていますが、その増加の程度は河川や洪水の状況によって大きく異なります。さらに、その違いを生み出す基本的なメカニズムについては、未だに十分解明されていません。

そこで本研究では、日本の4河川を対象に、高流量時がMMP輸送に及ぼす影響を現地観測により直接評価することを目的としました。

研究結果の詳細

集水面積(156 ~ 1240 km2)と人口密度(2140 ~ 9840人/km2)が異なる4つの日本の河川(鶴見川、多摩川、浅川、大和川)で現地調査を実施しました。各観測地点は河口に近く、且つ潮汐の影響が比較的少ない地点を選定しました。降雨に伴う増水に合わせて約半日間の連続表面サンプリング(毎正時)を行い、これを異なる出水規模で6回実施しました。

  • 増水時のプラスチック濃度の劇的な増加

    降雨時(総降水量8.8 ~ 117.9 mm)における連続観測を実施した結果、河川の流量増加に伴ってMMPの濃度が劇的に上昇することが確認されました。平常時の低流量条件と比較して、増水時のMMP濃度は10 ~ 1万倍増加しました。この増加は、河川の流量が増えるだけでなく、集水域に蓄積していたプラスチックの残骸が雨水によって一斉に河川に流入することを示唆しています。負荷量(単位時間あたりの輸送量)は流量と濃度の積で計算されるため、増水時には極めて高い負荷が生じることが明らかになりました。

  • 普遍的な流量と負荷量の関係式の確立

    観測データから比流量(Q’)と比質量負荷量(L’m)の関係を統計的に分析し、経験的なべき乗則の関係式を導出することに成功しました。マイクロプラスチックではL’m = 71.27 × Q'1.55、メソプラスチックではL’m = 108.76 × Q'2.20という関係式が得られ、これらは高い相関を示しました。注目すべきは、この関係式が都市化率23 ~ 69%、人口密度1560 ~ 6800人/km2という異なる集水域条件を有する複数の河川および異なる規模の降雨時で普遍的に成立したことです。この関係式を用いることで、流量データからプラスチック輸送量を簡易的に推計することが可能となり、実用的なモニタリング手法としての活用が期待されます。

  • 年間輸送量の多くが短期間に集中する実態の解明

    時系列分析により、プラスチック輸送が時間的に極めて偏っていることが明らかになりました。ある河川では、年間のメソプラスチック輸送量の90%がわずか43日間(1年の11.8%)という短期間に輸送されており、この期間はすべて高流量を示した洪水時に相当していました。マイクロプラスチック輸送も同様の間欠性(intermittency)を示しましたが、メソプラスチックほど顕著ではなく、やや分散した輸送パターンが確認されました。これらの結果は、従来の平常時のみの調査では年間輸送量の大部分を見落とす可能性があることを強く示唆しています。

本研究を主導した田中助教は、「本研究に類似した研究は存在しますが、今回のように様々な条件における河川の輸送実態を網羅的に捉えようとする試みは世界で初めてのことです。さらに、結果をすべて統合し、一般的な傾向まで見出して、他の研究者が使えるような状態に整備しており、世界に先駆けた研究になりました。本研究により、プラスチック排出量を簡単に推測できるようになります。また、人々の生活がどの程度河川へ負荷をかけているかが数値で可視化され、環境教育に役立つと考えられます」とコメントしています。

※ 本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構(ERCA)の環境研究総合推進費(JPMEERF21S11900)、公益財団法人河川財団の河川基金(2022-5211-028, 2024-5211-060)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Water Research

論文タイトル

How flooding rivers deliver plastic to the ocean: A case study of microplastic and mesoplastic load–discharge relationships

著者

Mamoru Tanaka, Yasuo Nihei

DOI

10.1016/j.watres.2025.125175

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