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環状糖と結合する新たな輸送タンパク質を発見
~環状β-1,2-グルカンに適したユニークな基質認識の解明~
東京理科大学
新潟大学
ポイント
- 環状糖は、ほかの分子を内側に取り込める性質があることから、その特徴を活かした医療応用が期待されています。
- 今回、環状および直鎖状の糖鎖β-1,2-グルカンに結合し、細胞に取り込みうる新たな糖輸送タンパク質を発見しました。
- 構造解析の結果、この糖輸送タンパク質では、湾曲した基質がその中央部分で結合しており、環状糖の結合に適していることが示唆されました。
- 環状糖の医薬品・食品分野への応用研究に向けた基盤となる成果です。
研究の概要
東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の中島 将博准教授、同大学 理学部第一部 応用化学科の鳥越 秀峰教授、新潟大学 農学部 農学科の中井 博之准教授らの研究チームは、グルコースが特殊な結合様式でつながった糖鎖であるβ-1,2-グルカン(*1)を細胞内へ取り込みうる新しい糖輸送タンパク質を世界で初めて発見しました。
β-1,2-グルカンは細菌の病原性や共生など多様な生命現象に関わる糖鎖です。特に環状構造をとる環状β-1,2-グルカンは、包摂化合物(*2)としての応用も期待されています。これまで、中島准教授らはこの糖鎖に注目し、分解酵素に関する知見を積み上げてきましたが、細胞内へとβ-1,2-グルカンを取り込む輸送の仕組みについてはほとんど解明されていませんでした。
本研究グループは、最も高温に適応し、光合成の進化の理解に重要とされる糸状光合成細菌の一種であるChloroflexus aurantiacus(*3)のゲノムの探索から候補となるタンパク質(Chy400_4166)を特定し、機能解析およびX線結晶構造解析を行いました。解析の結果、Chy400_4166は環状および直鎖状のβ-1,2-グルカンに高い親和性で結合すること、既知のβ-1,2-グルコオリゴ糖(*1)輸送タンパク質とは根本的に異なる新しい結合機構を持つことが明らかになりました(図1)。
今回の発見は、β-1,2-グルカンの輸送システムの解明や、細菌の病原性・共生メカニズムの理解に資するだけではなく、環状糖の生体内でのふるまいを理解するうえでの基礎的な知見であり、将来的には医学応用の基盤となることが期待されます。
本研究成果は、2026年5月10日に国際学術誌「FEBS Journal」にオンライン掲載されました。
図1. 本研究で明らかになったタンパク質Chy400_4166が環状β-1,2-グルカンを取り込む仕組み。
研究の背景
糖鎖は生命現象に重要な役割を果たす物質です。その種類は膨大で構造も複雑なため、機能や利用の可能性が解明されていないものが数多く存在します。そのうち、β-1,2-グルカンは、グルコースがβ-1,2-結合という特殊な様式でつながった糖鎖で、細菌の病原性や共生、浸透圧調節など多様な生命現象に深く関わっています。近年、中島准教授らの研究グループを中心にこの糖鎖を分解・合成する酵素の研究は急速に進み、新規の酵素ファミリーが次々と発見されてきました。
一方、β-1,2-グルカンが病原性や共生などにおいてどのような役割を果たしているか、その生体内での動態を知るためには、細胞への取り込み口となる輸送タンパク質の解明も不可欠です。しかし、β-1,2-グルカンが細胞内に取り込まれる輸送システムについては、まだほとんど分かっていません。
そこで本研究グループは、細菌における主な輸送システムの一つであるABCトランスポーター(*4)に着目しました。ABCトランスポーターは膜貫通ドメインの配列に基づいてI型からVII型の7つのタイプに分類され、基質を取り込むインポーターとして機能するのはI型〜III型です。I型およびII型では、インポーターは特定の基質を捕捉する溶質結合タンパク質(SBP、*5)と連携して機能します。つまり、基質に対する親和性はSBPによって大きく異なります。
β-1,2-グルカン関連糖鎖のABCトランスポーターに関連する報告はこれまでにわずか2例です。そのうちインポーターはグラム陽性菌であるListeria innocuaのI型ABCトランスポーターのSBPで、β-1,2-グルコオリゴ糖に結合するLiSO-BPだけでした。しかし、グラム陰性菌C. aurantiacusが、LiSO-BPとは全くアミノ酸配列の異なるSBP様タンパク質の遺伝子を持つことを本研究グループは先行研究ですでに見つけていました。そこで、本研究では、このSBP様タンパク質の詳細な機能と構造を解析しました。
研究結果の詳細
本研究グループはまず、C. aurantiacus Y-400-fl株のゲノムの探索を行いました。その結果、β-1,2-グルカン分解酵素の遺伝子クラスター内にABCトランスポーター関連遺伝子群が存在することを見出し、その中からSBPの候補として2つのタンパク質(Chy400_4166とChy400_4167)を特定しました。両タンパク質はいずれも、これまで知られていた唯一のL. innocua由来のβ-1,2-グルカン関連SBPとはアミノ酸配列の類似性が非常に低く、異なる性質を持つ可能性が示唆されました。
次に、Chy400_4166とChy400_4167の2つの候補タンパク質についてゲルシフトアッセイ(*6)を行ったところ、Chy400_4166のみが直鎖状β-1,2-グルカンに対して明確な結合を示したため、以降の解析をChy400_4166に絞りました。
等温滴定型熱量測定(ITC、*7)による定量解析では、Chy400_4166が環状β-1,2-グルカン(重合度17〜20)および直鎖状β-1,2-グルカンのいずれに対しても高い結合親和性を示す一方、大麦由来のβ-グルカンにはほとんど結合しないことが確認され、β-1,2-グルカンに対する高い特異性が明らかになりました。
さらに、X線結晶構造解析を行い、Chy400_4166とβ-1,2-グルカンとの複合体構造を原子レベルで決定しました。解析の結果、糖鎖の認識に中心的な役割を果たすアミノ酸残基を特定するとともに、Chy400_4166が糖鎖の末端ではなく中間部を認識する結合様式をとることを明らかにしました(図2)。また、基質の湾曲した構造を包み込むような結合部位を形成しており、Chy400_4166は構造的に環状糖の結合に適していることが示唆されました。これは、直鎖状の基質(β-1,2-グルコオリゴ糖)の末端を認識して結合するLiSO-BPとは根本的に異なる新しい結合機構です。
図2. 本研究から明らかになったChy400_4166と環状β-1,2-グルカンの複合体構造。
LiSO-BPとβ-1,2-グルコオリゴ糖の複合体構造との比較を行っている。緑:Chy400_4166とLiSO-BPのドメインⅠ、シアン:Chy400_4166とLiSO-BPのドメインⅡ、黄と赤:環状β-1,2-グルカン、白と赤:β-1,2-グルコオリゴ糖。
今後の展望
今回の発見により、β-1,2-グルカンの細胞内への取り込みを担いうる輸送タンパク質が世界で初めて明らかになりました。また、Chy400_4166の遺伝子クラスター内には、β-1,2-グルカンを分解する酵素群をコードする遺伝子も含まれていることが確認されており、「取り込み→細胞内での分解」という一連の代謝経路が存在することが示唆されています。今後はこの代謝システムの全容解明がさらに進み、β-1,2-グルカンが自然界で果たす役割の基礎的理解につながることが期待されます。
中島准教授は「環状糖は包摂化合物としても知られる化合物です。今回の発見は、環状糖の生体内での動態を調べるための基盤になる成果であり、将来的には応用研究にもつながることが期待できます」とコメントしています。
用語
- *1:
-
β-1,2-グルカン、β-1,2-グルコオリゴ糖
グルコース(ブドウ糖)が、下図の赤で示した位置のOH基どうしの結合(β-1,2-結合という様式)で連なった糖鎖。β-1,2-グルコオリゴ糖は鎖長が1桁程度の短いもの、鎖長が大きくなるとβ-1,2-グルカンとなる。β-1,4-結合でグルコースが連なった糖鎖はセルロースであり、結合の様式の違いで全く異なる糖鎖となる。
- *2:
-
包摂化合物
環状構造の内部に別の分子を取り込む性質を持つ化合物。医薬品・食品・化粧品などの分野で広く利用されている。 - *3:
-
Chloroflexus aurantiacus
酸素を必要とせずに光合成を行う糸状細菌の一種。β-1,2-グルカンを代謝すると推定される酵素の遺伝子を複数持つ。 - *4:
-
ABCトランスポーター
細胞外の物質を細胞内へ取り込む細菌の主要な輸送システムの一つ。 - *5:
-
溶質結合タンパク質(SBP : Solute-Binding Protein)
ABCトランスポーターの構成要素の一つ。細胞外で特定の化合物を認識・捕捉し、輸送システム本体へ届ける。 - *6:
-
ゲルシフトアッセイ
タンパク質と化合物の結合の有無を調べる実験手法の一つ。 - *7:
-
等温滴定型熱量測定(ITC)
溶液中で分子間相互作用に伴う熱変化を測定し、結合定数や熱力学量を解析する手法。
論文情報
雑誌名
FEBS Journal
論文タイトル
Structural and thermodynamic analyses of a novel β-1,2-glucan binding mode in the ABC transporter solute-binding protein Chy400_4166 from Chloroflexus aurantiacus
著者
Kazuya Kato, Tatsuya Kaneko, Rintaro Hirayama, Nobukiyo Tanaka, Hiroyuki Nakai, Hidetaka Torigoe, Masahiro Nakajima
DOI
発表者
- 加藤 和也
- 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科(2024年度卒業)
- 金子 達哉
- 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科(2022年度卒業)
- 平山 凛太郎
- 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科(2023年度卒業)
- 田中 信清
- 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科 博士課程(研究当時)
- 中井 博之
- 新潟大学 農学部 農学科 准教授
- 鳥越 秀峰
- 東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 教授
- 中島 将博
- 東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科 准教授
