ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2026.08.27 Thu UP

「職人技」だった電源回路設計をAIで自動化
~高効率・小型化など目的に応じた最適設計を自動探索~

千葉大学
東京理科大学

千葉大学大学院情報学研究院の関屋大雄 教授と、東京理科大学工学部電気工学科の朱聞起 助教らの研究チームは、電気自動車(EV)やデータセンターなどで使われる高周波電源回路を、AI/機械学習注1)を活用して自動設計する新たな手法を開発しました。本研究の大きな特徴は、電気回路だけを見るのではなく、半導体の電気・熱特性や、コイル・トランスの磁気特性までを一体的に扱う「マルチフィジックス設計注2)」を自動化したことです。さらに本手法では、回路定数の調整だけでなく、半導体や磁性コア、巻線、放熱部品などの候補選択も可能となります。この統合モデルを用いて、「高効率」「広い入力電圧範囲での高効率」「高効率と小型化の両立」など、目的に応じて異なる最適設計を自動探索することで、EV用充電器、サーバー電源など、高効率と小型化を同時に求められる分野への応用が期待されます。

本研究成果は、2026年8月10日に、学術誌 IEEE Transactions on Power Electronics で早期公開されました。(論文はこちら:10.1109/TPEL.2026.3722304

研究の背景

EV、太陽光発電、サーバーなどには、電圧を変換して電力を効率よく届ける「電源回路」が不可欠です。機器の小型化や省エネルギー化が進む中、電源回路にも「より小さく、より高効率に」という要求が強まっています。高速で動作させる高周波化は小型化に有効ですが、動作を速くするほど半導体やコイルの損失が増え、高効率との両立が難しくなります。

高周波電源では、電気回路の動作、半導体の発熱、コイルやトランスの磁気的な損失などが互いに強く影響します。さらに、効率を上げようとすると部品が大きくなりやすいなど、「高効率」と「小型化」の間にはトレードオフの関係があります。そこで本研究では、トレードオフの関係にある要素を一つの数値モデルに統合し、複数の性能目標を同時に評価することで、目的に応じた設計を自動的に探索します。

図:電気、磁気、熱のマルチフィジックス設計
図:電気、磁気、熱のマルチフィジックス設計

研究の成果

本研究では、電気・磁気・熱という異なる物理現象を一体的に扱う「マルチフィジックス」と、複数の設計目標を同時に扱う「多目的最適化」を組み合わせた上で、AI/機械学習を活用した探索・最適化により、膨大な設計候補の中から目的に合う組み合わせを選び出す手法を開発しました。本手法を代表的な電源回路の一つであるLLC共振型コンバータ注3)にて検証した結果、1 kW級・1 MHzのLLC共振型コンバータ試作回路で最高96.1%の電力変換効率を達成しました。また、小型化を重視した設計では、高い効率を保ちながら磁性部品の体積を約41%削減できることを確認しました。本手法は単一の正解を求めるのではなく、用途や優先順位に応じた“ちょうどよい設計”を提示でき、回路定数だけでなく半導体、磁性コア、巻線、放熱部品などの候補も探索変数として扱えるため、部品選定まで含めた統合設計が可能です。

今後の展望

今回の方法はLLC共振型コンバータだけでなく、さまざまな電力変換回路や異なる設計条件へ展開できます。今後、電気、磁気、熱に加えて、より詳細な物理モデルや実測データを統合することで、マルチフィジックス設計をさらに高度化し、パワーエレクトロニクス回路AI設計へ2年以内に実用化すること目指します。また、最適化で得られた多数の設計結果を蓄積し、将来のデータ駆動型設計の学習データとして活用することで、設計の高速化も期待されます。

用語解説

注1)機械学習:コンピュータが明示的にプログラムされることなく、データから自動的にパターンやルールを学習し、新しいデータに対して予測や判断を行う技術。

注2)マルチフィジックス設計:電気、磁気、熱など、互いに影響する複数の物理現象を一体的に考慮して設計する方法。

注3)LLC共振型コンバータ:コイルとコンデンサの共振を利用して、電圧を高効率に変換する代表的な電源回路。

研究プロジェクトについて

本研究は、以下の助成金の支援を受けて実施されました。

  • 文部科学省INNOPEL事業JPJ009777
  • 文部科学省COPELNIX事業JPJ013791

論文情報

タイトル

Metaheuristic-Based Optimization-Driven Design of MHz LLC Resonant Converters Considering Multiphysics and Multiple Objectives

著者

Yinchen Xie, Wenqi Zhu, Yutaro Komiyama, Ayano Komanaka, Kien Nguyen, and Hiroo Sekiya

雑誌名

IEEE Transactions on Power Electronics

DOI

10.1109/TPEL.2026.3722304

東京理科大学について

東京理科大学
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。